彼らはその後すぐに孤児院に戻り仕事を開始した。
だが、しばらく立った後ルーティがリオンを呼び出す。
リオンが呼び出されたのは、ささやかな団らんの部屋。
机の上に置いてあるのは、お茶と茶菓子。
「ねぇ、一つ質問していいかしら」
ルーティが尋ねる。
「お・お前……」
(ちょっと言う言葉が足りなかったかしら……)
「あたしはもっとリオンを知りたい。
ルーティ・カトレットという一人の人として」
と、ルーティは一言付け足す。
「やっぱりダメかな?
あたし、アンタといっしょに生活してきたけど、よく分からなくて……。
それで、どうしても……」
「別に、いいが……」
リオンが消えそうなくらい小さな声でそう呟いた。
「ねぇ、マリアンとアンタって、どんな関係?」
知ったところで何の意味もないのに、知りたくなる。
いっしょに住んでいるから。姉弟って知った時から、知りたかったから。
「お前には関係ないことだろう」
「確かに、アンタはあたしにそれを話したくないでしょうね。
でも、あんたが話したくなくても、あたしは知りたいの。
その気持ち、分かる?分からないでしょうね。
アンタは、人といっしょにいるのがあまり好きじゃないみたいだもんね!」
そう言われると、リオンは、何も話さなくなる。
リオンが、唯一心を開いている女性はマリアンであり、姉のルーティではない。
そう思い知らされたような気がしたルーティは、彼の心の明かりにはなれそうにない。
リオンの、心の中はいつも大雨で晴れることがあまりない。
でも、マリアンと、彼女といる時だけは、心はとても晴れていた。
だけど、マリアンが仕事に戻った後はいつも悲しそうな顔をしている。
リオンにとってマリアンとは唯一の太陽の存在なのである。
そんなとき、わざとらしくルーティが咳をした。
顔を上げたリオン。
二人とも俯いた。自分の表情で今の感情が分かってしまうのが、怖かったから。
姉だからこそ、知られたくないことがあるから。
その後5分くらいの時間が流れていく。
その時、リオンがわざとらしくため息をついた。
大きな音でルーティは耳障りだっただろう。
彼女は顔を上ると、リオンも顔を上げていた。
しばらく、見つめ合い、ルーティが深呼吸を始めた。
「ゴメンね。聞かれたくなかったよね。
マリアンとのこと……。誰にだって言いたくないことの一つや二つはあるものね……。
だから……ゴメンね」
「お前が謝ることはないだろう、ルーティ。
悪いのは僕だ。すまなかったな。騒乱のときから僕はお前に助けられてばかりだな……」
今日のリオンは少し正直だ。というか、いつもがひねくれていてるから(ルーティもだけど)
素直に謝ることなんてないから、ルーティはそれに少し驚いていた。
「アンタ……」
「……別に、なんでもない。……聞かなかったことに……してくれ……」
とぎれるリオンの声。
恥ずかしいのだ。通常、謝ることもほとんどなかったからだ。
「分かったわ。アンタはあたしに聞きたいこととかないの?
一つだけだったら応えてあげてもいいけど」
条件は「一つだけ」。
それは、ルーティがリオンに聞いたのが、一問だけだったから。
「……お前は、不安にならないのか?カイルとかロニのこと……」
「それは……やっぱりなるわよ。
でも、あたし今の生活が幸せなんだ。
こうやって地に足が着いた生活をしていると、毎日のように居場所が変わってた頃が、
とても懐かしいけど、でもそれでも、今の生活の方が幸せ。
やっぱり人って支えられて生きているってことを感じさせてくれるよ。
ここで生活していると」
ルーティの考え。
リオンとルーティの住んでいる場所はいっしょでも立場は全然違うのだ。
孤児院の存続人であるルーティと、そこで生活しているだけのリオン。
誰が見てもルーティの方が立場が上だというだろう。
「じゃあ、心配にはならないのか?カイルとかロニのこと」
「そりゃ心配になるけど、心配してたらきりがないじゃない。だって、お金がなくなったらどうしようとかさ・・・。
そう言う現実的な心配だってあるわけだし。心配してないって言ったらウソだけど、絶対生きて戻ってくるって信じてるから」
「信じる・・・か。そう言えばスタンも「信じる」って言葉が好きだったな・・・。後は「仲間」って言葉だな」
リオンが言う。
「そうね・・・。
スタンはそう言う男みたいなもんよね。
まぁ・・・。それが良いんだと思うけど」
ルーティは彼に微笑むと、
「そろそろ行くわ。今日はありがとう」
といって部屋を出て行った。
ルーティが、リオンにありがとうなんて言ったこと、ほとんどなかった。
覚えてないだけかもしれないが、神の眼の騒乱のときは一度もなかった。
あの二人には、姉弟という「絆」はあってもそれはとてももろい。一緒にいた時間も短いし、これからというのが正しいだろう。それでもよかった。
弟を知ることができるなら。ルーティはそんなことを考えながら洗濯物を干していた。