リオンの部屋から出ると、とりあえずチェルシーの部屋に向かった。

チェルシーは丁寧に弦の調整をしていた。
矢筒の中の矢までもがすべて丁寧に磨いてある。

 その時、アイラはルーティに呼ばれた。
ルーティは手早く話を始める。
「仕事のことなんだけど、アンタには街の護衛をしてもらいたいの。
リオンとチェルシー以外は現役を離れたからさ」

「護衛、ですか」

護衛ならアイラは何度もしたことがあった。
彼女はある国の護衛をずっとしており、盗賊たちの息の根を止めたこともあるのだ。
それを彼女は数年間繰り返していた。
だから、できないはずがない。むしろ、できない方がおかしい。

「数年間ずっとしてたんで、大丈夫です」

「そう、良かったわ。
それから、あさってくらいからちょっとダリルシェイドに行ってきてくれない?
お金がもうないからいろいろ売ってお金にしてほしいわけ」

(この人はやっぱりまだ金の亡者なわけ?)

「ダリルシェイド、ですか。
分かりました」
アイラは、また部屋へ戻っていった。
「結局、リオンさんには旅の話できなかったんだ。
いい提案だと思うんだけどさ……。
後、あたしあさってからダリルシェイドに行くから」

その言葉を聞いてチェルシーは今にも泣き叫びそうな表情を見せた。
 また、以前みたいな寂しい生活をするのがいやだったのだ。
チェルシーのそばにいた祖父、アルバ・トーンはもう亡くなったし、
ウッドロウは一国・ファンダリアの王として国と政治の中心人物になっている。
もう会えない人、以前より離れていってしまった大切な人。
そして、しばらくダリルシェイドまで行く、同居人であり、大切な友達。
チェルシーの心からどんどん想いがあふれ出てきた。

数分たってみてみると、チェルシーは泣いていた。
胸が締め付けられるほどに痛かった。

「ウッドロウさま……。おじいちゃん……」

アイラはチェルシーをそっとしておくのが一番良いと思い、リオンの部屋へ向かった。
「お前はなんで僕の部屋に来るんだ」

「チェルシーがちょっと今寝てるんで暇なんですよ」
アイラがそう言うと、リオンは皮肉っぽい笑みを浮かべた。
彼らの関係はシールドがあって近づけないようなな関係だ。
なのにアイラは「部屋がトナリだから」という理由で暇な時はリオンの部屋に行っていた。

 アイラはそばにあるソファに腰掛けた。
そして、辺りを見回す。すると、一つだけあることを発見した。

それは、部屋に生けてある花が唯一の光に見えたのだ。
咲いている一輪の花が、あたりの暗さを吹き飛ばし、炎を入れるランプのように見えた。

「リオンさんは、全体的に暗い部屋が好きなんですか?」
本棚には、チェルシーと同じく哲学的な本が沢山並べてあった。

「オベロン社・社史」「セインガルド王国・正史」「知られざる天地戦争」
などの本が多く、歴史に興味があるのかと思ったがそのことはふれないでおこうと彼女は思った。

「別に。あまり物を置きたくないだけだ」

「そうなんですか」

リオンは「氷」のように冷たい人だ。
だけどそれ故に「海」のような広い心で包んでくれそうな優しさも感じることができる。

「リオンさん、ちょっと水をもらってきますね?
リオンさんの分ももらってきます」

アイラはリオンの部屋から立ち去ると水を取りに行く。
暗かったのが明るくなり少し楽になっていた感じだったが
まだリオンの部屋の中にいる感じがしてそうに感じられた。

 水を取りに行くとき、翡翠のような緑色をした目の少年とぶつかりそうになった。
髪の毛は、炎のように赤く、ふれたら燃えてしまいそうな人だった。
アイラは「どうしたの?」と聞いたが少年は何も応えなかったので
そのまま台所へ行った。

 台所には、ルーティ・カトレットとスタン・エルロンがいた。
スタンは、太陽のような金色の長い髪の毛が特徴だ。海のような青い目もそういえるだろう。
ルーティは、墨のような色の髪の毛と、アメジストのような色の目、
細いウエストが特徴だった。

「アイラじゃん。お腹でもすいた?
食べるものなんてないわよ?」

そうルーティに言われた。

「水を二杯貰いに来ました」
アイラはそういった。
するとルーティはカップを取り出し「井戸水をくんで入れて」と言って去っていく。

(井戸水…… 井戸… なんか引っかかるな。別になんでもないだろうけど)

 もう、夕方だったので、井戸の水はだいぶん冷たくなっていた。
ダイヤモンドのようにすんでいる水は、それだけでとてもおいしそうに見えた。

「リオンさん、水です。
あと、フードサックにあったケーキを持ってきました。
ケーキは昨日ダリルシェイドで買った物なので品質は安全ですよ」

「あ、あぁ……」

夕食前のささやかな軽食を、二人はリオンの部屋で楽しんでいた。

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